近年、Pharmacovigilance(PV)領域でも、AIをPoC(Proof of Concept)として試行する段階から、実際のProduction Environmentへ導入する事例が公表されるようになってきました。
その一例として、ArisGlobalから、Bristol Myers Squibb(BMS)におけるNavaXを活用したPV Digital TransformationのCase Studyが公開されています。
本稿では、この事例の成否を評価したり、ArisGlobal、BMS、Accentureの取り組みを批評したりすることを目的とはしません。
むしろ、こうしたAI-PV Maker / Vendorから公表される成功事例を、これからAI-PVを導入するMAHはどのような視点で読み解くべきかを考えてみたいと思います。
1. BMS / ArisGlobal NavaX事例で公表された主なFACT
公開Case Studyによれば、BMSはArisGlobalのNavaXを用い、
- Dynamic Data Extraction
- Narrative Generation
をPV Case Intake / Processingへ導入しています。
NavaXは当初からBMSのAdverse Eventの約60%に使用され、特にE2BやElectronic Gatewayですでに構造化されている症例ではなく、処理負荷の高いCaseを中心に展開したとされています。BMS PV Operations / IT、ArisGlobal、AccentureによるCo-development Workshopも実施されています。
公表された主な成果は、
- 年間約400,000 Case規模のAE Process
- End-to-End Case Managementで25%以上のEfficiency Gain
- Dynamic Data ExtractionのF1 Score
70% → 85% at roll-out → 約95% - Narrative Generationでは、多くのCaseで90%以上のSimilarity Score
です。
また、Go-live後もArisGlobalによるHyper-care、迅速なTicket Remediation、High-frequency Releaseを通じてContinuous Improvementが継続していると説明されています。
大規模なPV業務でAIが実運用され、しかも本番稼働後のPerformance Improvementが具体的な数値で示されている点は、AI-PVの実用化を考える上で非常に興味深い事例です。
2. 「F1 95%」は重要な成果。しかし、MAHとしてはここからが評価の始まり
Dynamic Data Extractionについて、
70% → 85% at roll-out → 約95%
というF1 Scoreの改善が示されています。
F1 Scoreは、一般にPrecision(適合率)とRecall(再現率)を組み合わせたAI性能指標です。
したがって、「F1 95%」は単純に、
「100症例のうち95症例が正しかった」
という意味ではありません。
MAHが製品評価やPOC/FSを行う場合には、少なくとも次の点を確認する必要があります。
「95%」について確認すべきこと
- 評価対象はCase単位か、Field単位か、Entity単位か
- 評価対象のCase数、Document数、Field数はいくつか
- Case TypeやSource Documentの構成はどうなっているか
- Product Portfolioに偏りはないか
- Languageごとの性能差はないか
- Ground Truthはどのように作成されたか
- Ground Truthの作成・確認者は誰か
- Precision / Recallそれぞれの値はどうか
- Micro-F1、Macro-F1等、どの集計方法なのか
- PerformanceのAcceptance Criteriaは事前に定義されていたか
今回の公開Case Studyには、これらの詳細は記載されていません。
しかし、これは直ちに問題という意味ではありません。
Case StudyはValidation Reportではないからです。
重要なのは、MAHが「95%という数字を受け入れる」のではなく、自社にとってその95%が何を意味するのかを確認することです。
3. さらに重要なのは「85%から95%へ、何が変わったのか?」
このCase Studyで特に注目したいのは、AI Performanceが本番稼働後も改善している点です。
公開資料では、
- Hyper-care
- Fast ticket remediation
- High-frequency releases
によって継続的な改善が実現したと説明されています。
しかし、公開資料だけからは、
- Modelを変更したのか
- Algorithmを変更したのか
- Promptを変更したのか
- Rule / Dictionaryを変更したのか
- Training Dataを追加したのか
- Fine-tuningを実施したのか
- Error Caseを再学習へ利用したのか
までは分かりません。
AI-PVにおける信頼性保証を考えると、ここは非常に重要なポイントです。
単純に、
85% → 95%へ改善した
だけではなく、
なぜ改善したのか。
何を変更したのか。
変更前後でどのように比較したのか。
そのEvidenceをどう残したのか。
まで説明可能であることが、MAHにとって重要になります。
4. Performance ImprovementとReliability Assuranceは同じではない
AIのPerformanceが向上すること自体は望ましいことです。
しかし、GVP/GxP環境では、
Performance Improvement と、Reliability Assurance of that Improvement
は区別して考える必要があります。
例えばProduction環境でAI機能を変更した場合、MAHとしては、
- Model / Release Version
- 変更内容
- Change Impact Assessment
- 評価Dataset
- Ground Truth
- Acceptance Criteria
- Regression Test
- Validation / Verification結果
- Human Correction
- Override
- Exception
- Performance Trend
- 承認記録
等が、後からTraceできることが望まれます。
従来型のCSVでは、比較的固定されたSoftware Functionに対し、「要求仕様どおりに機能するか」を確認する考え方が中心でした。
AIの場合には、それに加えて、本番環境で性能が変化・改善するAIを、どのように継続的にAcceptableな状態として確認するか
という新しい論点が加わります。
5. Human Oversightはどのように設計されているのか
BMS Case Studyでは、
- careful oversight
- clear accountability
- transparent governance
- trust
といった概念が重要要素として記載されています。一方、
- HITL:Human-in-the-Loop
- HOTL:Human-on-the-Loop
- HIC:Human-in-Command
といった具体的なHuman Oversight Architectureは公開されていません。
これからAI-PVを導入するMAHであれば、AI性能の質問と同時にHuman Oversightについても確認する必要があります。
例えば、
Human Oversightで確認すべき事項
- AIが抽出したDataをHumanが全件確認するのか
- Narrative GenerationをHumanが必ずApproveするのか
- Confidence ScoreによりHuman Review対象を変えるのか
- Low-confidence CaseのみHumanへEscalationするのか
- Serious / Expedited Caseでは異なるOversightを適用するのか
- HumanがAI OutputをOverrideできるか
- Override理由を記録するか
- Human CorrectionをAI LearningへFeedbackするか
- Exception / Escalationの基準は誰が定めるか
- 最終責任を持つHuman Roleは誰か
という点です。
AI-PVでは、AI Performance だけでなく、AI + Human System全体としてのPerformance を見る必要があります。
6. 「Humanが確認しているから安心」でも十分ではない
逆に、「最後は人間が確認するので問題ありません」だけでも、AI-PVの信頼性保証としては十分とは言えません。
Human Reviewを行うのであれば、
- 何を確認するのか
- どの程度確認するのか
- どのCaseを確認するのか
- Human Errorをどう把握するのか
- AIとHumanが異なる判断をした場合どうするのか
- Human Interventionそのものをどう記録するのか
を設計する必要があります。
つまり、HITLを置くこと そのものが目的なのではなく、
Patient Safety Riskに応じて、AIとHumanの役割・責任・介入点を合理的に設計する
ことが本質になります。
7. Accentureの役割からも見える「TechnologyだけではないAI導入」
今回のCase Studyでは、Accentureは単なるSystem Implementation Vendorとしては記載されていません。
BMSはAccentureをBusiness Process Outsourcing Partnerとして位置づけており、AE Management ProcessのOutsourcing拡大に伴い、AccentureがTesting / Validationにも関与し、BMS-specific Case Scenarioに関する深い業務知識を反映したと説明されています。
また、BMS PV Operations / IT、ArisGlobal、AccentureによるCo-development Workshopが行われています。
この点も重要です。
今回の25%以上のEfficiency Gainは、NavaXというAI製品だけの効果 とは必ずしも言えません。
Case Study自身も、初期のEfficiency GainはProcess Changeによる寄与が大きく、その後AIのImpactがより顕著になったと説明しています。
したがって、
Process Redesign
+ BPO / Operating Model
+ AI Technology
+ Change Management
+ Hyper-care / Continuous Improvement
の組み合わせによる成果として読むのが適切でしょう。
8. Vendor Claim → Vendor Evidence → MAH Assurance
AI-PV Maker / Vendorから成功事例が提示された場合、MAHとしては次の3層を区別すると理解しやすくなります。
① Vendor Claim
例: F1 = 95% Efficiency Gain = 25%
これは製品・事例について公表されたPerformance Resultです。
② Vendor Evidence
次に、どのDatasetで、何件を対象に、どのGround Truthと比較し、どのVersionで、どのように95%を確認したのかを確認します。
③ MAH Assurance
そして最終的には、
そのVendor Evidenceを、自社のPV Process、自社Data、自社Case Mix、自社Language、自社Risk Profileにおいて、どのように確認し、Acceptableと判断するか
がMAHの課題になります。
したがって、Vendor Evidence = MAH Validation Evidence とは限りません。
責任主体と使用環境が異なるからです。
9. AI-PVを検討するMAHがVendor / POCで確認したい10項目
今回のBMS / NavaX事例から、今後AI-PVのRFI、RFP、Demo、POC/FS等でMAHが確認したい項目を整理すると、次のようになります。
- AI Performance Metricの定義
- Evaluation Population / N数
- Ground Truthの作成方法
- Case Type / Product / Language別Performance
- False Positive / False Negativeの内容
- Human Oversight / HITL / HOTLの設計
- AI変更時のChange Control
- Regression / Re-validation方法
- Production Performance Monitoring
- Performance / Human Intervention / ChangeのEvidence保存とTraceability
製品Demoでは「AIが何をできるか」に目が向きがちです。しかし、GVP環境への実導入を想定する場合には、
「うまく動くこと」だけではなく、
「うまく動いていることを、継続して証明できること」
まで評価対象に含める必要があります。
10. HPC Commentary
今回のBMS / ArisGlobal NavaX Case Studyは、AI-PVの現実的な進展を示す非常に興味深い事例だと考えます。
特に、F1 70% → 85% at roll-out → 約95% というPerformanceの継続的改善が、本番稼働後の数値として示されたことには大きな意味があります。
一方で、これからAI-PVを導入するMAHにとって、本当に重要な問いは、「95%まで改善したか?」だけではありません。
むしろ、「その95%とは何か?」、「なぜ95%になったのか?」、「誰がどこでAIを監視・確認しているのか?」、「変更後も信頼できることを、どのように記録し説明するのか?」まで確認することが必要になります。
AI-PVの議論は、徐々に、Can AI work? ― AIは使えるか? から、Can we continuously assure that AI remains trustworthy?― AIを使い続けても信頼できることを、継続的にどう保証するか? へ移りつつあります。
Vendor Case StudyのPerformance Numberを見る際にも、その数字の先にある、
Reliability Assurance
Human Oversight
Continuous Monitoring
Traceability / Explainability
まで含めて考えることが、今後のMAHにとって重要になるのではないでしょうか。
HiroPharmaConsulting Co., Ltd.
HPC Mailing News / AI-PV Special Commentary
※本稿はArisGlobalが公開したBMS Case Studyを題材として、AI-PV導入を検討するMAHの立場から評価時の論点を整理したものです。公開Case Studyに詳細記載がない項目について、BMS、ArisGlobalまたはAccentureが当該活動を実施していないことを示すものではありません。
「予告編」
AIの活用は、社会のさまざまな領域で急速に進んでいます。一方、医薬品産業、特にGxPの現場では、
-「まずは様子を見よう」
-「規制当局の方向性を確認してから」
– 「AIを使っても、最後は人間が確認すればよい」
という段階に、まだ留まっているケースも少なくないように感じます。しかし、AIをGxP業務に導入するとき、本当に「最後は人間が確認します」 だけで十分なのでしょうか?
AIと人間の関係には、いくつかの異なる設計があります。
■ HITL:Human-in-the-Loop
AIの処理・判断に、人間が直接関与する。
■ HOTL:Human-on-the-Loop
AIは一定範囲で自律的に処理し、人間は監視し、必要な場合に介入する。
■ HIC:Human-in-command
AIを「何に使うか」「どこまで任せるか」「いつ止めるか」を、人間が決定する。
■ HOOTL:Human-out-of-the-Loop
個々の処理について、人間がLoopから外れる。
これらは、一見すると、単なるAI用語の違いに見えるかもしれません。しかし、GxPでAIを利用する場合には、
「AIに何をさせるか」だけではなく、「人間をどこに、どのような役割で残すのか」
が重要な設計課題になります。
例えばPV: Pharmacovigilanceでは、
AE情報抽出、Case Triage、MedDRA Coding、Duplicate Detection、重篤性評価、因果関係評価、Literature Screening、Signal Detection、Regulatory Reportingなど、AI活用を検討できる業務は数多くあります。
しかし、そのすべてに同じHuman Oversightを適用すればよいのでしょうか?
高リスクの医学的判断までHOTLにできるのか?反対に、低リスク・大量処理まで全件HITLにすると、「AIを導入したのに、人間の確認作業だけが大量に残る」ことにならないでしょうか?
そして、「人間が確認している」=「安全性・品質が保証されている」と言えるのでしょうか?
今回から全6話で、AI-PVを具体例として、AI + Human の新しい業務フォーメーションについて、できるだけ初歩から考えてみたいと思います。
【全6話】 第1話 HITL ― 人間が全件確認すれば安心なのか?
第2話 HOTL ― 人間は「作業者」から「監視者」へ
第3話 HIC ― AIを使う・止めるのは誰か?
第4話 HOOTL ― GxPで人間をLoopから外せるのか?
第5話 AI-PV業務をHITL/HOTL/HOOTLでどう組み合わせるか?
第6話 PVからGMP/GCP/GDPへ ― GxP Human Oversightをどう設計するか?
このシリーズで考えたいのは、「HITLとHOTLのどちらが正しいか?」 ではありません。AIのUse Case、患者安全への影響、GxPリスク、AIの性能・成熟度に応じて、人間の判断、監視、介入、そして最終的な権限を、どこに配置するのか。AIをGxPへ適用するのであれば、避けて通れないテーマだと考えています。
次回、第1話は、「HITL ― AIの出力を人間が全件確認すれば、本当に安心なのか?」から始めます。
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【第1話|HITL ― 人間が全件確認すれば安心なのか?】
AI-PVで最も理解しやすいHuman Oversightが、HITL:Human-in-the-Loopです。
- AIがAE情報を抽出する。
- AIがMedDRA Termを提案する。
- AIが重篤性や報告要否を提案する。
そして、人間が確認し、最終判断してから確定する。これが典型的なHITLです。患者安全や規制報告に大きく影響する高リスク業務では、現在も非常に重要な考え方です。
しかし、一つ注意が必要です。「人間が確認する」こと自体が、品質保証ではありません。
毎日数件なら慎重に確認できても、AIが何千件もの結果を出し、人間がそのすべてにApproveを押す運用になったらどうでしょうか?
Automation Bias, Review Fatigue and Rubber-stamping。
人間がLoopの中に存在していても、実質的な判断を行っていなければ、Human Oversightは形骸化します。重要なのは、「人がいるか?」ではなく、「人がAIの出力を理解し、疑い、修正し、拒否できるか?」ではないでしょうか。
AI-PVでは、医学的判断、重要なSafety Assessment、規制上重要なDecisionなど、HITLが適切な領域は今後も残ります。
しかし、すべてをHITLにすることが、最も安全で最も適切なのか?これは別の問題です。AIの処理量が増えるほど、Human Oversightそのものの設計が必要になります。
次回は、HOTL:Human-on-the-Loop
人間が「作業者」から「監視者」になるとはどういうことかを考えます。
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【第2話|HOTL ― 人間は「作業者」から「監視者」へ】
AI活用の本当の効果を得ようとすると、「AIが処理した結果を、全部人間がもう一度確認する」というHITLだけでは限界が出てきます。
そこで登場するのが、HOTL:Human-on-the-Loopです。
HOTLでは、AIは定められた範囲内で処理を進めます。人間は個々のTransactionすべてに参加するのではなく、システムを監視し、必要な場合に介入する。
例えばAI-PVなら、
・Confidence Scoreが基準以下
・原資料との矛盾を検出
・重篤症例
・未知または重要なSafety Issue
・通常とは異なるCase Pattern
・AI Performanceの低下やDrift
などを検出した場合に、人間へEscalationする。つまり、Human approval by default から、Human intervention by exception への変化です。
ここでは、人間の役割そのものも変わります。「AIと同じ作業をもう一度行う人」から、「AIが正常に機能し続けているかを監視し、異常時に判断・介入する人」へ。
ただし、HOTLには重要な前提があります。何を異常とするのか? Confidence Thresholdはいくつにするのか?誰へAlertするのか?どの条件で処理をStopするのか?どの状態になったらHOTLを停止し、HITLへ戻すのか?
これらが明確に設計されていなければ、HOTLは単なる「人間の確認を減らした自動化」になってしまいます。そして、もう一つ重要な点があります。HOTLにすると、記録や証拠が不要になるわけではありません。
HITLでは、「誰が、いつ、Approveしたか」というHuman Reviewの記録が中心になります。
一方、HOTLでは、
・どのThresholdが使用されたか
・Monitoring機能が正常に稼働していたか
・Alert / Stop条件が適切に監視されていたか
・Exceptionが発生した場合、誰にEscalationされたか
・Overrideや再処理が適切に記録されたか
・AI PerformanceやDriftが継続的に監視されていたか
といった、System-generated Evidenceがより重要になります。つまり、Less Human Review ≠ Less Controlです。人間の署名が減る代わりに、「監視が本当に機能していたこと」を示す証拠が必要になります。
HOTLとは、人間を減らす仕組みではなく、人間の役割と、残すべき証拠の種類を変える仕組みと考える方が適切だと思います。
次回は、HITL/HOTLとは少し違う視点、Human-in-command について考えます。AIを「監視して止める」ことと、AIそのものを「使う・変える・止める権限を持つ」ことは、同じなのでしょうか?
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【第3話|Human-in-command ― AIを使う・止めるのは誰か?】
HITLとHOTLを説明すると、「ではHuman-in-commandは、その次の段階ですか?」と思われるかもしれません。
しかし、少し違います。
Human-in-commandは、HITL/HOTLと同じ一直線上にある第3段階ではなく、その上にあるGovernanceの考え方として見る方が分かりやすい。
ここで、HOTLとの違いを整理してみます。HOTLでも、人間にはAI処理を止めたり、Overrideしたりする権限が必要です。例えば、「ConfidenceがThresholdを下回った」、「異常なCase Patternを検知した」、「重大なExceptionが発生した」ため、その処理を人間が停止する。
これは、Operational Stopです。
個々のProcessやTransactionに対して、監視者がリアルタイムに介入する。これがHOTLの重要な役割です。一方、Human-in-commandが扱うのは、もう一段上の判断です。
例えば、
・このAIを本番業務で使い続けてよいか
・どのPV業務までAIに任せるか
・Confidence Thresholdそのものを変更してよいか
・Model Updateを承認するか
・適用対象を拡大するか
・HOTL運用をHITLへ戻すか
・重大なPerformance Driftが発生したためAI System自体を停止するか
といった判断です。
これは、Governance-level Stop / Governance Decisionと考えることができます。つまり、HOTL:異常が発生した個々の処理を止めるのに対して、Human-in-command:AIをどのように使うか、その運用方式そのものを決めるという違いです。
例えばAI-PVでCase TriageをHOTL運用していたとしても、AI自身が、
「今日からConfidence Thresholdを下げます」
「対象Caseを増やします」
「性能が低下していますが、そのまま運用します」
と決めるわけではありません。
そこには、PV、Safety Physician、QA、IT、System Ownerなど、責任と権限を持つ人間側のGovernanceが必要になります。Human-in-commandとは、「人間が毎件確認する」という意味ではありません。
AIを何に使い、どこまで任せ、どの条件で変更・停止するかについて、最終的なCommand Authorityを人間が保持すること。
個々のProcessがHITLであってもHOTLであっても、誰が責任を持つのか。誰がOverrideできるのか。誰が適用範囲を変更できるのか。誰がModel Changeを承認できるのか。
そして、誰がAIそのものをStopできるのか。GxP AIでは、“Who is in command?” を明確にすることが、AI Performanceそのものと同じくらい重要になると思います。
そして、この考え方は次回のHOOTLにもつながります。個々のTaskから人間を外したとしても、Governanceまで人間を外してよいわけではありません。
次回は、HOOTL:Human-out-of-the-Loop 人間が個々の処理Loopに入り続けることが現実的ではないPV業務について考えてみます。
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【第4話|HOOTL ― GxPで人間をLoopから外せるのか?】
・HITL:Human-in-the-Loop
・HOTL:Human-on-the-Loop
・HIC :Human-in-command。
では、HOOTL:Human-out-of-the-Loop はどうでしょうか?
HOOTLというと、「AIにPV業務を全部任せて、人間は何もしない」というイメージを持たれるかもしれません。しかし、実際のPVでは少し違った見方が必要です。例えば、Duplicate Detectionを考えてみます。
Safety Databaseに新しい症例が入るたびに、「この症例は過去のどの症例とDuplicateの可能性があるか?」を、過去の数万・数十万件の症例とを人間が1件ずつ比較することは現実的ではありません。
ここではAI/Algorithmが、
・Database全体を検索する
・Duplicate候補Pairを絞り込む
・Similarity Scoreを計算する
・候補Groupを生成する
といった処理を、人間の個別介入なしに実行する必要があります。つまり、このTaskは、HOOTLにせざるを得ない領域と考えることができます。
しかし、その後、「本当にDuplicateなのか?」、「どの症例をReference/Master Caseとするのか?」という重要な判断には、人間が関与する。
例えば、
・Database Search / Similarity Calculation → HOOTL
・Candidate Monitoring / Exception Handling → HOTL
・重要な最終判断 → HITL
というHybrid構成です。
Signal Detectionも同様です。膨大なSafety Databaseについて、Drug × Eventの組合せを継続的に計算し、Disproportionality、Trend、異常Patternを探索する。これも、すべての組合せに人間が毎回介入することはできません。したがって、Database-wide Screening / Statistical Calculation → HOOTL として機械が処理し、一定の基準を超えたものを人間へAlertする。その後、Signal Review / Evaluation → HOTLまたはHITLへつなげる。
ここで重要なのは、
HOOTL = 人間が不要ではないことです。
人間がLoopから外れるのは、特定のTask / Transactionです。PV Process全体の責任やGovernanceまで人間が外れるわけではありません。むしろ、どのTaskならHOOTLにできるのか?どこからHuman ReviewへEscalationするのか?False Negativeをどう監視するのか?性能が低下したら、いつHOTL/HITLへ戻すのか?を、人間が設計する必要があります。
したがってHOOTLは、“人間を個々のTransaction Loopから意図的に外した自動処理領域” と考えると理解しやすいと思います。そして、その上位には、Human-in-commandが残ります。
次回は、これまでの4つをまとめて、「実際のAI-PV業務では、HITL / HOTL / HOOTLをどう組み合わせるのか?」を考えてみます。
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【第5話|AI-PV業務をHITL / HOTL / HOOTLでどう組み合わせるか?】
ここまで、
・HITL:Human in the Loop
・HOTL:Human on the Loop
・HIC: Human in command
・HOOTL:Human out of the Loop
を見てきました。では、実際のPV業務では、どれを選べばよいのでしょうか?私は、「一つを選ぶ」のではなく、「Taskごとに組み合わせる」ことが重要だと考えます。
例えばDuplicate Detectionなら、
■ 全Database検索・Similarity計算
→ HOOTL
■ Thresholdを超えた候補の監視・Exception Handling
→ HOTL
■ 難しいDuplicateの最終判断
→ HITL
■ Threshold変更、Model Update、適用範囲変更、停止判断
→ Human-in-command
という構成が考えられます。一つのPV Processの中に、HOOTL、HOTL、HITL、Human-in-command がすべて存在するわけです。
同じ考え方は、Case Processingにも使えます。
・例えば、AIによる情報抽出 → 条件次第でHOTL
・Medical Assessment → HITL
・大量のTechnical Validation → HOOTL
・AI Performance Monitoring → HOTL
・Model Change / Suspension Decision → Human-in-command
つまり、「当社のAIはHITLです」、「当社はHOTLです」というSystem単位の説明だけでは不十分です。必要なのは、AI Use Case / Task / Decision単位でHuman Oversightを設計すること。
そして、Risk Levelだけではなく、
・患者安全へのImpact
・誤りの検出可能性
・AIの実績Performance
・Confidence
・データ品質
・Fallbackの有無
・Human Review能力
などを組み合わせて判断する。これが、Risk-based Human Oversightだと思います。さらに重要なのは、この配置を固定しないことです。
導入初期はHITL。性能実績が蓄積すればHOTLへ。逆にDriftや品質低下を検知したらHITLへ戻す。Human Oversightそのものも、Lifecycleを通じて変化させる設計 が必要になります。私は、これをHybrid Human Oversight として考えると分かりやすいと思います。
次回、最終話ではPVから視野を広げて、この考え方をGMP/GCP/GDPへどう展開するかを考えます。
#ArtificialIntelligence #AIinPV #Pharmacovigilance #HITL #HOTL #HOOTL #HumanOversight #HumanInCommand #RiskBasedApproach #GxP #AIGovernance
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【第6話|PVからGMP/GCP/GDPへ ― GxP Human Oversightをどう設計するか?】
全6話で、AI-PVを例としてHuman Oversightを考えてきました。最後に、PVから少し視野を広げてみます。
・GMPでは、製造条件最適化、Deviation Analysis、Visual Inspection、Predictive Maintenance、文書作成支援。
・GCPでは、Protocol関連業務、Site Monitoring、Data Review。
・GDPでは、物流監視、Temperature Excursion、Supply Risk Prediction。
対象業務は違っても、基本的な問いは同じです。AIに何を任せ、人間に何を残すのか?すべてをHITLにすれば安全なのでしょうか?AIが大量処理を行っているにもかかわらず、人間が全件を再確認するのであれば、AI導入の効果は限定的です。
一方で、早すぎるHOTL/HOOTLは、患者安全、製品品質、Data Integrity、Complianceのリスクを高める可能性があります。したがって必要なのは、一つの正解を探すことではなく、Risk-based Human Oversightを設計すること。
HITL。HOTL。限定的なHOOTL。そして、その全体を、Human-in-command でGovernanceする。
この組合せ、Hybrid Human Oversight が、これからのGxP AIを考える上で重要な基本形になるのではないでしょうか。そしてHuman Oversightは、AI導入後に追加する「最後の確認工程」ではありません。
AI導入の最初の段階から、
・Risk Assessment
・User / Business Requirement
・Validation / Assurance
・SOP
・Training
・Performance Monitoring
・Change Control
・Periodic Review
の中に組み込んで設計する必要があります。AIの時代になっても、人間が不要になるわけではありません。むしろ、
・人間がどこで判断し、
・どこで監視し、
・どこで介入し、
・誰が最終責任と停止権限を持つのか。
これまで以上に明確にする必要があります。
AI + Human。GxPでAIを使うということは、AIの性能を評価するだけではなく、Human OversightそのものをDesignすることでもあるのではないでしょうか。
今回のシリーズが、PVだけでなく、GMP/GCP/GDPを含め、「これからAIをGxPへどう取り入れるか」を考える一つの入口になればと思います。
#ArtificialIntelligence #HumanOversight #AIGovernance #GxP #GMP #GCP #GDP #Pharmacovigilance #AIinPV #PatientSafety #Quality #RiskBasedApproach
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